この記事は誰に向けたものか
この記事は、次のような方に向けて書いています。
大企業で契約書作成・検討業務に携わり、社内の関係者と共通認識を作るためのチェックリストや、後任者への引継書を作成しておられる方。
企業法務を扱う法律事務所の弁護士のうち、クライアント企業の契約担当者の実務レベルを把握しておきたい方。
人的リソースが限られる中小・スタートアップの代表者のうち、相手から提示された契約書のどこに気をつけるべきか知りたい方。
日本の法規・商習慣に詳しくないものの、日本企業との契約にあたり留意点を把握しておきたい海外企業の担当者の方。
私は、単体売上高1兆円を超える日本企業に40年以上勤め、法務・知的財産・新規事業創出の各部署で、3,000件を超える契約書の作成・検討・交渉・締結・リスクマネジメントに携わってきました。
私は弁護士ではありませんので、この記事は法律相談や交渉代理を目的としたものではなく、私自身の実務経験の一つの紹介にとどまるものです。
秘密保持契約によくある制限規定
秘密保持契約を検討するとき、次のような条文を目にすることは多いのではないかと思います。
第●条(複製等)
1 非開示者は、本件取組の遂行に必要な範囲を超えて、秘密情報の全部又は一部を複写複製してはならない。また、複写複製された秘密情報は、秘密情報として取り扱う。
2 非開示者は、秘密情報を改変、分解、解析又はその他リバースエンジニアリングをしてはならない。
この条文では、相手から開示された秘密情報の複写、複製、改変、分解、解析及びリバースエンジニアリングの制限、禁止が規定されています。
なお、リバースエンジニアリングとは、既存の製品を分解または解析し、その仕組みや仕様、構成部品、技術や設計などを明らかにすることをいいます。
秘密保持契約に、このような制限・禁止規定を設けることはよくあることですが、では、このような規定を設けると、秘密情報の秘密性は担保できると考えてよいのでしょうか。
私は、この点について、長年少し慎重な見方をしてきました。
制限規定だけでは足りないと感じる理由
関係が浅い段階で結ばれるという特徴
秘密保持契約は、多くの場合、研究開発や事業推進などプロジェクトの初期段階で締結されます。
初期段階ということは、相手の会社と交流を始めて間もないというケースもあるかもしれません。
両社のプロジェクト担当者は、何度か顔を合わせ、意見交換を行っていて、相手の会社のことを肌で感じているものの、契約書作成・検討業務担当者などバックオフィスの人たちは、相手が実際どんな会社かということをまだよく掴んでいないといった社内の温度差が生じることもあるかもしれません。
相手が信頼に足りるかどうかよくわかっていない状況では、いかに秘密保持契約を締結しても、相手がどの程度誠実に契約義務を履行してくれるのかはわかりません。
漏洩後には決して戻らないという現実
相手に開示した秘密情報がいったん漏洩すれば、当然のことながら漏洩前の状態に戻ることは決してありません。
契約書は、相手が誠実に契約義務を履行してくれることを大前提に作成されます。
相手がそれを履行しないのであれば、契約で相手を拘束することができなくなってしまい、契約を締結する意味そのものが薄れてしまいます。
相手の会社と交流を始めて間もない段階で締結することの多い秘密保持契約などは、特にこの点に留意しておくことが大切だと、私は考えています。
契約は相手の誠実な履行が前提
契約とは、法的な効果が生じる約束である以上、秘密保持契約にも、冒頭で示したような制限・禁止規定を設けますし、それらが破られないように、差止請求や損害賠償請求をする規定も設けます。
ただ、それはそれとして、開示した秘密情報が複写、複製、改変、分解、解析又はリバースエンジニアリングされ、漏洩してしまう可能性はゼロではないことを前提として、ビジネススキームを検討、構築しておく必要があるのではないかと、私は思っています。
私は常々そのスタンスでいましたし、秘密情報交換の結果として複写などの制限・禁止行為がなされなければ、それはそれで儲けものと考えていました。
情報を三つに分類して考える
こういった理由から、万が一であっても漏洩したり、複写、複製、改変、分解、解析又はリバースエンジニアリングされたりしてしまうと、自社が経済的損失を被るとか、競合他社に有用性のある情報が流出してしまうとかいった、多少なりとも自社が確実に損害を被る秘密情報は、いかに秘密保持契約を締結していても、決して開示しない。
そうならないよう、秘密保持契約を締結するときには、事前にバックオフィスを含めた社内関係者の間で、契約締結後、相手に開示してもよい情報と開示してはならない情報に分けて整理、確認し、共有しておくというステップがあってもよいのではないかと、私は考えています。
会社が保有する情報の整理の仕方としては、少なくとも、次の3種類があると思います。
①秘密保持契約を締結しなくても、他社に開示、提供することのできる情報
②秘密保持契約を締結した相手には開示、提供することのできる情報(秘密保持契約を締結していなければ、開示、提供してはいけない情報)
③いかに秘密保持契約を締結していたとしても、第三者に開示、提供することは一切認めることのできない情報
この分類からすると、秘密保持契約を締結して相手に開示、提供することのできるのは、②の情報に限定されます。
以上申しあげました情報の分類の考え方は、あくまでも一つの考え方です。読者のみなさんの具体的な業務にあてはめて、最適な方法をお決めいただければと思います。
契約書作成・検討業務において検討が必要なチェックポイント
秘密保持契約に盛り込む複写・複製・改変・分解・解析・リバースエンジニアリングの制限・禁止規定案は、その内容で十分か。また、秘密保持契約締結前に、社内関係者間で、相手に開示してもよい情報と開示してはならない情報とに分けて整理、確認、共有できているか。
本記事の内容をもとに契約条文の修正を生成AIで行う場合のプロンプト例
自社は、相手に開示する秘密情報について、決して複写、複製、改変、分解、解析又はリバースエンジニアリングされたくないし、開示する秘密情報の一部であっても漏洩を阻止したいと考えています。そのための制限・禁止規定案を検討し、回答してください。
あわせて、厳しい制限・禁止規定を設けた場合、相手の会社だけでなく自社もそれを遵守しなければならなくなる点についても、留意点として指摘してください。


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